『お母さんの恋人』 伊井直行

お母さんの恋人

お母さんの恋人

    
「お母さんとお父さんが出会ったとき、お母さんは三十六歳だった。お母さんはわたしを産んだ後、三十八歳で亡くなった。」

冒頭のこの一文で始まる物語は、しかしながらこの一文で想像されるような(といってもどんな想像するかは個々人で違うとは思うが、少なくとも僕が想像したような)ストーリーとはまるでかけ離れたものだった。

とんでもない起伏があるわけでもなく、ある意味ふわふわした、それでいて部分的には妙にリアルなところもある掴みどころの無い作品ではあったけど、個人的には没頭して読みふけった、読書を楽しめた作品だった。

先日読んだ『ストーナー』もそうだったが、こういうまず最初に結果が伝えられていて、後は如何にその結果に辿り着くかを楽しむ作品が、僕はけっこう好きなのかもしれない。死ぬか生きるか・結ばれるか別れるかなんて結局作者の思い1つでどちらにも転ぶものだから、予め結果が提示されていることでそこに思いを巡らせる必要が無いのがいいのかもしれない。